先日、都立多摩図書館で開催された、写真家長根広和さんの鉄道写真撮り方講座に行ってきました。
本格的に鉄道を撮影することはあまりないのですが、だからこそ、行ってみました。
そうしたら学びがたくさんあったのです。
鉄道を撮る人も、撮らない人にも汎用的に役立つセミナーでしたので、まとめました。
写真って長くやっていると、5月病のようなスランプが来て撮れなくなったりすることがあるのですが、そういう時に全く違うジャンルの撮影をしてみると、また撮る意欲が湧いて来ることがあります。
普段スナップやお花や人物撮影を主にしているなら、経験のない鉄道撮影をしてみるとか。
違うジャンルの撮影には普遍的に共通するもの、新鮮な視点の両方があり、刺激になります。
長根さんのセミナーは、失敗しない鉄道写真の模範的な撮り方がわかるセミナーでした。
教えていただいた鉄道写真の撮り方のエッセンスをまとめましたので、鉄道に慣れている方はいつもやっている撮り方の再確認に、慣れていない方は新ジャンルに挑戦する手掛かりに‥きっとなると思いますので、ぜひお読みください。
会場となった都立多摩図書館は、東京都が運営する『雑誌の図書館』です。
発行されている雑誌のうち、なんと、約19,000種類を取り揃えています。過去1年分を保管しているので、ついつい買いそびれた雑誌も、ここに来れば閲覧できるんです。
また、利用できる人は都民に限りません!
どなたでも自由に入館できて、保管している雑誌やその他の資料を見ることができます。
とっても太っ腹な多摩図書館は、2017年にリニューアルオープンしており、すごくきれいで気持ちのいい空間です。利用しないのはもったいないです。
場所はJR中央線西国分寺駅より徒歩7分。比較的駅から近いのもうれしい。
駅からの道も広々ゆったりしていて、開放感でいっぱいの良い場所です。
講師の長根広和先生
JRの時刻表の表紙担当など、実績多数!
緻密な予測にもとづく鉄道への愛に溢れた作品で、鉄道ファンを魅了しています。
鉄道写真の型
鉄道形式写真
鉄道編成写真
鉄道風景写真
鉄道イメージ写真
ガチガチの鉄道マニア以外の方には、鉄道風景写真、鉄道イメージ写真の方が、鉄道形式写真よりも共感できるかと思います。
鉄道写真向けの撮影モード
鉄道写真の撮影モードは「シャッタースピード優先」または「マニュアル」モードの二択です。
その理由は、鉄道写真の撮影にはスピードのコントロールが不可欠だから。
シャッタースピード優先モードはメーカーにより呼び名が多少違っていて、TVモード、Sモードなどという名称が付けられています。
鉄道を撮りたい方は、シャッタースピード優先モードを覚えましょう。
鉄道写真向けのシャッタースピード
さて、シャッタースピード優先と言っても鉄道の種類や状態により適したスピードが異なってきます。
長根さんにシチュエーション別の、目安のシャッタースピードをご教授いただきました。
止めて撮る時のシャッタースピード
ただ、鉄道の向きや車体の種類により微調整が必要となってきます。
向かってくる列車
向かってくる列車を望遠レンズで撮るときは比較的簡単で、1/250秒程度のシャッタースピードがあれば、撮ることが可能です。
できれば1/500秒以上の方が望ましいです。ピッと止めて写せます。
横向きに走っている列車を望遠レンズで大きく撮る
やや難易度が上がります。
横向きに走っている列車を撮る時、シャッター速度は1/1000秒以上は必要です。
横向きに走っている列車を広角レンズで寄って撮る
さらに難易度が上がります。
見かけの速度が速くなるため、シャッター速度はもっと速い1/4000秒程度が要求されます。
カメラが持っている力を極限まで使うことになります。
EOS kissやα6400などのエントリータイプのカメラでは、シャッタースピードはマックス速くしても1/4000秒が限度です。
鉄道撮影は、機材の底力を必要とする撮影ですね。
新幹線
新幹線を撮る場合、1/8000秒必要です。
1/8000秒となると、どんなカメラでもOKというわけには行きません。
一眼レフでもミラーレスでもよいですが、中級機以上のカメラが必要になります。
例えばこのあたり。
こういった、比較的上位機種のカメラを使い、一番早いシャッター速度を使ってやっと撮れるのが、走行中の新幹線というわけです。
でも成功すると、とてもカッコいい作品になります。
流して撮る時のシャッタースピード
流し撮りはシャッター速度を遅くしてカメラを振って撮影する技法のことで、画面の中に「動感」を写し込む撮り方です。
鉄道の背景または前景が流れて、鉄道の一部だけがはっきりと見えるため、流し撮りが成功すると疾走感を強く感じるカッコいい写真になります。
ですが、技術的には非常に難しい。
遅いシャッター速度の方が動感が大きくなってカッコいいですが、成功率は超絶低くなります。
シャッター速度が遅くなればなるほどピントが合って見える範囲も狭くなり、非難易度は非常に高いです。
初心者にはなかなか敷居の高い撮影方法となります。
流し撮りのためのシャッタースピードは、1/125〜1/60秒程度が成功率が高く無難だそうです。
初心者はまずは1/125〜1/60秒を目安に流し撮りの練習を始めるとよいですね。
流し撮りの成功率を上げるアイテム
きれいでカッコいい流し撮り作品を撮るために、以下のようなアイテムを取り入れると成功率もアップし、撮影の幅も拡がります。
NDフィルター
流すためにシャッタースピードを下げると、光量が増えて、明るくなりすぎる問題が発生します。
この問題を解消するために有効なのがNDフィルターです。
NDフィルターは、意図的に光量を減らす効果があります。
NDフィルターを使うことで、表現に必要な遅めのシャッター速度と、適度に絞った絞り数値を共存させて撮影することができます。
鉄道の場合、軽めに3〜4段ほど絞りが増やせるND8〜ND16程度のNDフィルターがあれば充分です。
ND8〜ND16程度のNDフィルターは、それほど高価なアイテムではありませんので、持っているレンズに合せて購入しておくとよいでしょう。
一脚
三脚が使えるとより安定しますが、混雑した場所では使用できません。また、使用禁止の場所も多いです。
せめて一脚があれば手持ちよりもグンと安定感がアップします。
ビデオ雲台
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動画撮影に使用するビデオ雲台を活用すると、流し撮りの精度がアップします。
レバーをつ〜っと動かすことでカメラを上下に手ブレさせずに一方向に振ることができます。便利なものです。
鉄道写真のピントのあわせ方
鉄道写真向けのピント合せの方法は「AIサーボのオートフォーカス」か「マニュアルフォーカス」の置きピンです。
鉄道が動く向きによっても変わりますので、2種類の方法を覚えておくとよいと思います。
こちら側に向かってくる鉄道の場合は、AFサーボが有効です。
AIサーボはコンティニュアスAFサーボとも言います。
(メーカーにより言い回しが違う)
オートフォーカスでのピント合せはシャッター半押しにより作動させますが、シャッター半押しの間中、ピントを合わせ続けるフォーカス方式がAIサーボです。
絶対失敗したくない時はマニュアルフォーカスにして、置きピンにするのが確実です。
[置きピンとは]
置きピンというのは、脳内で構図を作り、「ここ」と決めた場所にピントを合せておいて待ち、被写体がやって来てイメージ通りの構図になった時にすかさずシャッターを押すという撮影手法のことです。
ピントを置いておくので置きピン。
鉄道の他、スナップ撮影などでもこの手法を使います。
置きピンは現代のようにオートフォーカス技術が発達する前の時代に編み出された、伝統的な撮影手法です。
ローカル鉄道などは運行本数が少なく、撮影チャンスが限られるため、撮影の成功率を高めることが何より重要となります。
成功率を上げるためには、自分なりの勝ちパターンを作っておくとよいでしょう。
鉄道×風景写真の構図のポイント
鉄道と風景を組み合わせた鉄道風景写真。情緒があり美しいです。
美しい鉄道風景写真を撮るために、構図の上で意識することがあります。
ランドマークと鉄道はクロスに配置する
ランドマークと鉄道の両方を活かすために、クロスに配置することが大切です。
重なってしまうと双方の魅力を殺してしまいます。
大事なものはクロスにレイアウトしましょう。
画面を4分割して1つに鉄道をinする
画面を4つに分割し、その中の一つに鉄道が入るように撮影する。
これが、長根流鉄道風景写真のキー概念です。
なるほどしっくり来ます。
構図の概念でよく聞く「3分割構図」より実践しやすくてキマりやすいように思います。
撮影の成功率を上げるために、鉄道写真はカメラ2台体制がおすすめです。
理由:
鉄道写真はチャンスが少ない!
ローカル線は1日に数往復しかしない路線多数。
しかも数年後には廃線になるかも‥
さらに組み合わせる自然風景や、光の状態を考えると撮影機会はまさに一期一会。
表現とバリエーションを増やすために、カメラは2台以上の複数台体制で挑んだ方が良いです。
2台のカメラそれぞれに異なった焦点距離のレンズを組み合わせたり、縦と横の両方の構図を作ったりといった使い方をします。
1度の撮影チャンスで複数の作品を作れるようにしておくと、1回で2度美味しい撮影ができます。
鉄道をアップで撮る時に「切る」位置に注意
また、画面の中央に配置してはいけません。安定しすぎてつまらないです。
カット場所の目安は台車の横あたりとなります。
単線を撮る時は立ち位置に注意
鉄道好きの人は、愛するものに寄れる喜びから、極限まで近づいて撮ってしまうのですが、近づきすぎると、かえって鉄道の良さが表現できません。
鉄道の正面の顔がゆがみます。
適度な距離を保って撮影することが重要です。
適度な距離とは、複線であると想定して撮ることです。
単線の手前に、もう位置路線と砂利があるとイメージし、その分の距離を保って撮影すると、一番美しくゆがみのない姿で車両を撮影することができます。
鉄道以外の人工物を隠す
看板や、建築物、鉄柱、墓など、鉄道がある場所には多くの人工物が同時に存在しています。
鉄道も人工物と言えば究極の人工物ですが‥
鉄道風景写真では、鉄道以外の人工物が画面に入らないように極力工夫しましょう。
下から煽ったり、右にずれたり、左にずれたりして、手前にある人工でないもの、例えばひまわりなどを活用して、人工物を隠すように撮ります。
まとめ
鉄道風景写真撮影の極意を、余すことなくお伝えいただいた2時間でした。
長根さんは「鉄道風景写真」と称されていますが、私は、長根さんが撮っているのは風景写真であるとともに「鉄道ポートレート写真」なんだと思います。
例えば、以下は今回披露された技法の一端です。
これ全部、「鉄道」を「女性」に替えて読んでみてください。
女性ポートレート写真を撮る時に注意することそのものですー。!
自分がこだわる美を追求する姿勢、自分が愛するものと普遍的な美を組み合わせる技こそが、プロの写真家のプロであるゆえんなんだなあと深く実感する学び多き2時間でした。
長根さんは質問するとしっかりと丁寧に答えを教えてくれます。
設定や構図やカメラの機能など、細かい部分まで徹底的に学びたい方にはおすすめの先生です。
多分、人に自分の知識を教えることも大好きなのだと思います。
鉄道撮影に興味をお持ちの方は、一度講座に参加してみると楽しいですよ。
今回の記事で取り上げた技法も、セミナーでご披露いただいた技の一部です。講座に参加すれば、もっといろいろ教われるはずです。
ちなみに、EOS学園オンラインで教わることができます。
ただ、EOS学園には注意点が一つ‥
撮影に使用するカメラはCANON製でなくてはなりません。
(レンズはキヤノン製でなくてもOK)
長根さんの講座を受けるためには、CANONのカメラを用意する必要があるのです。
もし、新たにCANONのカメラを「割安に手に入れたい」と思われるのであれば、2019年現在、私のおすすめは一眼レフの5Dmarkⅳ(ファイブディーマークフォー)です。
5Dmark4発売から3年の月日が経ち、いい感じに価格が下落してきました。
しかしいくら価格が下落しようが、発売時に実現した高度な基本性能は全く落ちていません。(当たり前ですね)
プロが必要とするきめ細かな設定が可能で、過酷な環境でも頼りになる堅牢性と卓越した描写性能を持っています。
5Dmarkⅳは一流の写真が撮れる実直で信頼できるカメラです。
2019年に発表された広告写真のデータでも、5Dmarkⅳはプロのカメラマンがよく使用する機材ベスト4に入っています。
今買うのは本当に割安での取得となり、賢い選択です。購入を後悔することはないでしょう。
プロの鉄道写真家の技を実践したい方は、ぜひ検討してみてください。
5D mark4のレビュー記事を書いています。参考になりますのでぜひお読みください。